2017年7月19日水曜日

弁護士らしい話し(其の25)


― ジョン・クラカワーの「ミズーラ」と刑法改正 ―
 刑法における性犯罪に関する規定が大幅に改正され、また、施行されました。
 性犯罪の処罰の強化、厳格化というようにメディアでは報じられていますが、ある意味、そのような範囲を大きく上回わるものです。
 法定刑が3年以上の有期懲役から5年以上の有期懲役に引き上げられ、被害者の告訴を要しない非親告罪と改められた、というようなことにとどまらず、枠組自体が大きく変化しています。
 従来は、強姦罪の定義は、「暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪と(する)」とされていたものが、「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪と(する)」と改められました。
 処罰される行為の範囲は広くなり、被害者は男女を問われないこととなりました。

 アメリカの作家・登山家で、ジョン・クラカワー(Jon Krakauer)という人がいます。1996年のエベレストの大量遭難事件を描いた「空へ」(ヤマケイ文庫)、映画化された「荒野へ」(集英社文庫)、「信仰が人を殺すとき」(河出文庫)という事実を畳み掛ける、独特の筆致が個性的で魅力的な書物を著しています。そのクラカワーがアメリカ北西部のモンタナ州の田舎の小さな大学都市で起こった一連のレイプ事件に関する警察官、検察官、裁判官、弁護士の言動を仔細に報じた「ミズーラ」という作品を2015年に著し、その日本語版を読みました(201610月、亜紀書房発行。全509頁)。非常に刺激的であって、法曹としての有り方、裁判の実際、そして、人の自由と尊厳というものについて、大いに考えさせられました。

 アメリカにおけるレイプの概念について、目を見張っていました、無智にも。そして、改正刑法の施行!
 我が国の刑罰法規も、略同様になったようにも思われますが(同意の無い性交等までは処罰の対象とはしていない様子)、それでも訴訟法、刑事手続法の領域では、なお改められるべき課題が沢山有りそうな気がしています。
 モンタナ州等では、「女性に対する暴力防止法」なるものに基づいて、全ての性的暴力被害者が証拠採取キットを自由に利用できるとし、また、First Step Resource-Centerという施設も設けられているとか。

 これらに比して、我が国は・・・と無頓着に思っていましたが、今次の刑法改正・・・
 微々たるものかも知れませんが、それなりに社会の前進を実感しています。