2019年9月20日金曜日

弁護士らしい話し(其の35)

 北関東で、ベトナム人の実習生が老夫婦を死傷させたかのような報道がされています。 
「ベトナム」「実習生」という言葉を聞くと、何とも早、不幸な事件である、と大いに心が痛むところです。  昭和1516(194041)年の仏印進駐では、大変な迷惑を掛け、また、195575年のベトナム戦争では、甚大な災厄を経験した国であり、その人〻。
 勿論、今回の犯人とされている人は、その後の世代の人であることは間違いのないところ。
 それでも、親日的であり、勤勉と聞いている若者がこのような事件に関係したとされていることは、大いに心の痛むところです。
 そして、法律家としては、その人の我が国における在留資格が実習生ということを聞くと、この実習生制度の危うさが又しても露呈したケースか、と嘆息せざるを得ないところ。
 外国の人達に、我が国内で働いて貰う制度としては、古くは、研修生。次に、実習生。そして、昨年12月の法改正にて、漸く事実に即した制度となり、今春から、「特定技能」1号、2号というものが開始しました。

(「入管法」)
 入管法「出入国管理及び難民認定法」は、昭和26(1951)年に政令319号として制定されて以来(制定時では、「政令」であったが、昭和27年4月28日以降は法律としての効力を有するように)、昨年12月の改正までに60余回の改正を経ています。
 これら数多の改正の中でも、昭和57(1982)年以降は、難民条約・難民議定書への加入に伴い、難民認定業務を法務省入国管理局が担当することとなり、名称が只今の「出入国管理及び難民認定法」に改められました。
 そして、昨年12月には、在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」が新たに設けられ、4月から施行されています。

 事此処に至るまでには、制定以降68ヶ年を数える中、平成10(1998)年以降の近〻20ヶ年の間に計30回余の法改正が立て続けに行なわれ続けていることが極めて特徴的です。
 文字通り、只今現在を生き、ダイナミックに人〻を規律し、特に、外国人と外国人に関わる人〻にとって、文字通り生きているルールとして存在しています

(外国人労働者)
 昭和の時代(~1989年)においては、外国人労働者という言葉遣い自体珍しいものであったように記憶しています。つまり、外国人であって、日本で働いている人というものは、それなりの背景事情の下でのことと概ね考えられていました。
 ところが、平成の時代(19892019年)に入って、労働者として我が国に入国する人達が加速度的に急増してきました。外国人労働者は、希有なものではなくなりました。

(「在留資格」と「活動」と「身分又は地位」)
 そして、法令の規定振りとしては、平成に入って、「在留資格制度の意義と機能」を明確化し、どのような在留資格をもって在留する外国人が我が国(「本邦」と表現)において、どのような活動を行なうことが出来るか、ということを、その「別表第一」において具体的に規定するようになりました。
「在留資格」の取得、そして、その「在留資格」に基づいて本邦において行うことができる「活動」の範囲・内容が具体的に定められています。
 一方、「別表第二」では、「本邦において有する身分又は地位」という表現が「活動」に変わって用いられています。

(在留資格「技能実習」)
 1993(平成5)年以来、在留する外国人が報酬を伴う(否、むしろ、それを目的とする)「技能実習」に従事し、働くということが広く行なわれて来ています。
 が、その実態としては、劣悪な労働環境に晒されていると問題が指摘されてもいます。

 制度的沿革としては、海外進出した我が国の企業が現地社員を招聘したことから始まるようで、1981(昭和56)年に、「研修」との在留資格が設けられました。
 その後、「研修」を経た者を対象に、1993(平成5)年からは、「特定活動」との在留資格を以ての技能実習が始められ、その後の入管法の改正(平成21年法79号)において、改めて「技能実習」という在留資格が設けられました。つまり、この間は、「特定活動」の在留資格で以て、「研修」後の技能実習が行なわれて来ていた訳です。そして、平成21(2009)年の法改正後、翌20(2010)年から在留資格としての「技能実習」が登場しました。

(国際的な非難)
 技能実習という制度発足からは、四半世紀が経過していますが、この間、国連人権委員会の専門家からは、2009年時点で、「研修生や技能実習生制度内での虐待があること。これらは本来、一部アジア諸国への技能や技術の移転という善意の目的を備えた奨励すべき制度であるにもかかわらず、人身取引に相当するような条件での搾取的な低賃金労働に対する需要を刺激しているケースも多く見られる」、2010年時点で、「研修・技能実習制度は、往〻にして研修生・技能実習生の心身の健康、身体的尊厳、表現・移動の自由などの権利侵害となるような条件の下、搾取的で安価な労働力を供給し、奴隷的状態にまで発展している場合さえある。このような制度を廃止し、雇用制度に変更すべきである」との指摘を受けて来ています。

(在留資格「特定技能」)
 そして、昨年に、これらを改善するべく、「研修」とか、「技能実習」とかではなく、正規に労働者としての外国人を受け容れるという趣旨の下、「特定技能」という在留資格が法改正によって新たに登場しました。
 これは正面切って労働者の入国を受け容れたものです。

(まとめ)
 我が国の入国管理は、外国人が海外からやって来て、一定期間滞在した後は、又海外へ帰って行く・・・ということを想定したシステムで以て長年営まれて来たように思われます。
 勿論、その外国人が日本人になる、帰化という手続は、国籍法は認められて来ています。
 帰化というのは、英語では、Naturalizationと表現します。

 一方、明治以降、日本人が海外へ出て行って、其処に定住する、移民については、英語では、海外へ出向くのを、Emigration、海外から入って来るのは、Immigrationと表現されますが、前者が専らのテーマであって、後者については、戦後昭和26年の出入国管理法を見ても、基本的には想定されていなかったのではないか・・・という気がします。
 これについては、早晩戻る、帰国することを前提にしか、外国人を受容して来ず、また、その後、研修生とか、実習生とか、その身分が安定しているとは言い難い「在留資格」しか、我が国で働く人達については、認めて来てはいませんでした。

 これについて、昨年末の法改正、4月1日の施行ということで、「特定技能」という「在留資格」が新たに設定され、早晩、我が国に永続的に定着する、つまり帰国することの無い労働者の受け容れに至ることになりました。
 これを以て、我が国は、移民を受け容れるようになったと評しても、強ち過言ではないでしょう。