2020年7月6日月曜日

弁護士らしい話し(其の37)


我が国の社会福祉と合衆国の失業保険


我が国の福祉政策は、北欧流の高度福祉国家ではなく、また、合衆国のような低度福祉国家でもない、というような言い方がされていたように記憶。

 福祉政策の財源とされている消費税の税率を捉えて、北欧では、20%以上である一方、我が国では漸く10%。
 今回、この話し、よくよく丁寧に確認して行くべしと考え始めたのは、雇用保険、その中で中心となる失業保険の給付レベルの多寡が気になり始めたことが契機。
 そして、更に、この動機を後押ししたのは、去る5月24日の朝日新聞の次のような投書。

休業手当 金額に目を疑った
・・・休業手当って「平均賃金の6割」以上出ると聞いていたので8640円の6割=1日5184円は出ると思っていた。だが、労働基準法の1日平均賃金の計算方法は、直近3カ月の額面収入÷3カ月の休みも入れた日数、とややこしい。私の場合、1~3月の約53万2千円を91日で割る。約5840円。その6割は約3500円で明細と合う。


 この話しが間違い無いものか?と労働基準法26条(休業手当)「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」との規定について、その算式について、政令、規則は具体的にどのようになっているのか?と「労働法全書」(労働行政研究所編)に当たって見たところ、法レベルの規定の次には、行政解釈が有るばかり。

 そして、その翌日5月25日の朝日新聞の生活欄には、今度は、次のような見出しの記事が掲載。
「休業手当『賃金の6割以上』では?」
「働く予定だった日数分を支給『実質4割しか』」
「多くの人生活できぬ水準」


 具体的には、前述の3か月の日数の「91日で割る」そして、「その6割」に「休日を除いた予定労働日数」、例えば、62(日)を乗じる、ということになっています。
 すると、0.6×62910.4強の日額に!

 ところで、Fireという英語は、真に多義に用いられる様子。
 名詞では、火、火事、情熱、炎症、苦難、射撃。
 動詞では、点火する、解雇する・・・

 かの合衆国大統領の発言では、この最後のFire!馘首!が有名。
 そして、彼の国では、解雇・馘首は、我が国のように厳格には規制されていないと知られるところ。
 嘗ては、労働基準法19条(解雇制限)、20条(解雇の予告)をめぐって蓄積されて来た多数の裁判例は、平成19(2007)年には、労働契約法という実定法の形に整えられ、その第16条は、次のように明規!
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

 これに対し、記憶するところでは、我が国に進出して来た大手家庭用品メーカは、人事問題、解雇問題で、以前には、よく訴訟沙汰になり、徹底的に争っていたことを記憶。

 かくて、合衆国のイメージは、金持ちの国、労働者に厳しい国・・・という労働法的には、我が国よりも後進か・・・との漠然とした思い・・・

 所謂失業保険のケアも、我が国よりは劣後しているのだろう・・・と思っていたところ、改めてその制度について調べ始めると、それは正当な認識ではなかった模様。
 つまり、合衆国の失業保険は、専ら使用者側に税として課せられた原資に依って営まれているとのこと。
 そして、その税についても、州税と連邦税とが有ります。

「合衆国の失業保険」の特徴は、2016年の独立行政法人労働政策研究・研修機構の「米国の失業保険制度(全47頁)」のレポートに拠れば、概略次の通り。

 米国の失業保険は、全額が使用者負担。

 失業保険の運用や財政は、州政府の裁量に任され、財務状況が悪化すれば、連邦政府から有利子で貸与がされます。

 失業保険は、連邦失業税と州失業税を財源とし、原則として、州失業税によって賄われる、州失業税は、殆どの州で使用者のみが負担します(3州を除き)。

 一方、連邦失業税の対象となる事業主は当該年または前年のいずれかの年に、1 人以上の労働者を暦年で20週以上雇用する事業主、または、当該年または前年のいずれかの四半期に合計1500ドル以上の賃金を支払った事業主です。

 一方、失業保険の給付については、20082013年にては、
通常の失業保険(基本26週)
  EUC(緊急失業補償プログラム)(1447週)
  EB(延長給付プログラム)(13週又は20週)

 最大計40週~93週が可能。
 加えて、20092010年に限れば、週25$を追加給付するという連邦追加補償(FAC)が有った。また、連邦職員、退役軍人に対するUCFEやUCX等〻の恒久的制度も有る模様。

 かくて、201314年時点では、1億3千万人が失業保険の対象となり、その受給者数は、毎週200万人~300万人に及ぶとのこと。

 具体的には、連邦平均では、2014年第4半期の週受給額は318$、受給期間は16週。
 しかし、州別では、202$~443$、10.4週~21.6週。バラツキは大きい。

 支給対象となる失業者には、「自身の過失によらず職を失い」、「身体的および時間的に就業が可能で」、「積極的に求職している」ことが求められます。
 また、日本とは異なり、失業保険の年齢区分は存在せず、上述の条件を満たしている限り同様の給付を受けることができます。

 ところで、我が国の雇用保険においては、被保険者は、適用事業に雇用される労働者であって次の者以外のものです。①65歳に達した日以後に新たに雇用される者、②週所定労働時間が当該適用事業の通常の労働者よりも短く、かつ30時間未満である労働者であって、季節的に雇用される者、または1年未満の短期雇用に就くことを常態とする者、③日雇労働被保険者を除く日雇労働者、④4カ月以内の期間を予定して行われる季節的事業に雇用される者、⑤船員保険の被保険者、⑥国、都道府県、市町村等で雇用され、他の法令により離職した場合に求職者給付および就職促進給付の内容を超える給与等を受ける者。

被保険者は4種類に分かれます。第1は一般被保険者です。これはさらに、短時間労働被保険者と、それ以外の一般被保険者とに分けられていましたが、平成19年の改正で短時間労働被保険者の区分は廃止され、一般被保険者に吸収されました。第2は高年齢継続被保険者、第3は短期雇用特例被保険者、そして第4は日雇労働被保険者です。

 最新のネットでの情報では、米労働者が去る5月8日に発表した4月の雇用統計では、失業率14.7%、失業者数約2050万人とのこと。

 2月のそれは、3.5%で、半世紀ぶりの低水準であったとの由。

 一方、5月のそれは、若干改善、13.3%。
 4月より改善ながら、依然厳しい状況。

 我が国の失業率は、3月で2.5%、4月で2.6%、5月で2.9%。
 日本では、失業率が2桁まで上昇するとは考え難いとされているものの、過去にリーマンショック(2008年9月)後、2009年7月には、5.5%という戦後最高水準に達しました。

 今回、このリーマンショックの状況と比較して、既に約1.3倍の落ち込み幅が示されている、として、リーマンショック後を超える6%台という予想もされているようです。

 更に、解雇まで至らずとも、休業を強いられる労働者を潜在的失業者、隠れ失業者とすると、リーマンショック時は355万人、今回は517万人。
 これを含めると、実質的失業率は、11.3%に至るという予測もされているようです。

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