12月14日の横浜地裁の判決-東名あおり運転事件-
「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第4号)に当て嵌まるかどうかが問題になりました。
あおる、煽る、という言葉は、他動詞であって、「風や火の勢いで物を動かす」と第一義的にはされています(広辞苑)。
その中で、二番目以降、三番目に「そそのかす」「煽動する」の意とされています。
そして、法律家の世界では、公務員の争議行為の禁止に関連して、争議行為・怠業的行為をそそのかし若しくはあおってはならない、という罰則付の規定をめぐって、昔(昭和40年代ですから、半世紀も前)によく問題となり、言葉自体、それなりに知られていたものでした。
そして、具体的な罰則としては、「危険運転致死傷罪」の適用が問題となるばかりです。
道路交通法に、あおり運転という定義なり、概念が規定されている訳ではありません。
典型的なものは、「車間距離の不保持」であって、これは道交法119条1項1号の4や120条1項2号に罰則があります。
が、ともかく今回問題となったのは、危険運転致死傷罪の成否です。
ところで、平成25年以前は、交通死亡事件等について、罰則としては、刑法の業務上過失致死罪の成否が問題とされていました。
その後、平成25年に法改正があり、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(平成25年法律6号)というものが出来て、「危険運転致死傷罪」と「過失運転致死傷罪」とに大別されました。
そして、今回のケースで問題となったのは、同法2条4号の「・・・走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の・・・車に著しく接近し・・・自動車を運転する行為」という定義(「構成要件」と言いますが)の「運転する行為」に該当するかどうか?であったようです。
事故が発生した瞬間は、被告人は、クルマの運転をしていなかったから、危険運転致死は成立するべくもない、というのが弁護人側の主張でした。
一方、検察側は、「高速道路上での停車」を問題にして、停車もあおりに当たる、としたようですが、裁判所は、これは認めず、そこに至る「一連の行為」をあおり運転と認定し、停車と追突、死亡との密接関連性を認め、一体として成立を認定したようです。
一法曹としての感想としては、検察の主張、つまり高速道路上での停車は、一般的には、自らに危険を招く行為であって、他者に危険を招来するかどうかは、それこそ状況次第と思われます。
刑罰を以て禁圧しようとする法律の規定の、解釈、適用は、ある意味予測可能な、また、合理的なものであるべきです。
趣旨としては、一緒だから・・・というような考え方は原則として排除されるべきです。
であってみれば、停車が他車に直ちに危険を招くから、犯罪成立!?というのではなく、今回の判決で述べたように、被告人の行為は、前後一連の総体において、犯罪が成立する、とでも言う外なかったように思われます。
尤も、4号が「運転する行為」としているのに対し、停車させたばかりで運転していない、というのも団子理屈・・・
追っ付け、刑事法の専門家諸氏が必ずや活発に議論を展開する筈ですので、乞う御期待というところでしょうか。
一方で、「高速道路上での停車」を危険運転行為とする法改正が行なわれるような話しも現に有るようです。
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