司法取引と弁護人の立会権
司法取引というものは、英米法系の法概念のようです。
司法取引は、米語では、名詞では、Plea Bargaining、動詞として、司法取引をする、というのは、plea-bargainと表現します。
bargain、この言葉の元〻の意味は、交易、取引を指したようです。
我が国では、バーゲン・セール、安売り、見切り販売を指しますが、英語のBarが法廷を指すこともあることから、これは刑の量刑の叩き売りではない筈です。
しかし、それでもplea-bargainというのは意味深です。
ところで、英語で法廷を意味するBarは、仕切り柵としてのBarがあることから生まれた言葉と言われています。
Bargainは、このBarとGainとの合併語と思いきや、語源、詳細は不明であるが、ともかくこの一語は、もともとは契約の意味で、後に安い買物、特売品を指称するようになったとのこと(語義語源辞典に拠れば)。
扨、今話題の司法取引は、刑事訴訟法350条の2が次のように規定していることに拠ります。
「検察官は、特定犯罪に係る事件の被疑者又は被告人が特定犯罪に係る他人の刑事事件(以下単に「他人の刑事事件」という。)について1又は2以上の第1号に掲げる行為をすることにより得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状、当該関係する犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して、必要と認めるときは、被疑者又は被告人との間で、被疑者又は被告人が当該他人の刑事事件について1又は2以上の同号に掲げる行為をし、かつ、検察官が被疑者又は被告人の当該事件について1又は2以上の第2号に掲げる行為をすることを内容とする合意をすることができる。
1 次に掲げる行為
イ「被疑者の出頭要求・取調べ」又は「第三者の任意出頭・取調べ、鑑定等の嘱託」による検察官、検察事務官又は司法警察職員の取調べに際して真実の供述をすること。
ロ 証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。
ハ 検察官、検察事務官又は司法警察職員による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすること(イ及びロに掲げるものを除く。)。
2 次に掲げる行為
イ 公訴を提起しないこと。
ロ 公訴を取り消すこと。
ハ 特定の訴因及び罰条により公訴を提起し、又はこれを維持すること。
ニ 特定の訴因若しくは罰条の追加若しくは撤回又は特定の訴因若しくは罰条への変更を請求すること。
ホ「最終弁論」による意見の陳述において、被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること。
ヘ 即決裁判手続の申立てをすること。
ト 略式命令の請求をすること。」
「②前項に規定する『特定犯罪』とは、次に掲げる罪(死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たるものを除く。)をいう。」
として、その3号は、次の通り定めています。
「3 前2号に掲げるもののほか、租税に関する法律、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)又は金融商品取引法(昭和23年法律第25号)の罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの」
ここに「金融商品取引法(昭和23年法律第25号)の罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの」という点が只今話題のもの。政令は、平成30年政令第51号です。
これに関しては、実務家の意見も岐れ気味のようであって、ある意味、古いタイプ、或は伝統的な法意識の下では、所詮形式犯ではないか・・・という言い方もされている一方で、その及ぼす影響は少なからざるものがあると強く指弾されるべきともされているようです。
しかし、この事件の余波としては、この捜査は、改めて我が国の刑事司法制度が所謂先進各国の水準からはかなり懸け離れているのではないか・・・という疑問、非難に晒されている点で興味深いところです。
それは、身柄を拘束された被疑者の取り調べには、弁護士・弁護人の立ち合いを認めるのが世界標準ではないのか!?との指摘です。
憲法で基本的人権に関する規定は、次の通りです。
31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
34条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
依頼する権利は認めるが、弁護人は、取り調べに立ち会えず、とするのが、只今の我が国の水準です。
これは、どうも最早先進各国の水準からは、かなり劣後しているように思えてなりません。
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