2016年2月3日水曜日

弁護士らしい話し(其の12)


著作権と意匠権

 経済産業大臣の引責辞任が姦しいところです。

 経済産業省の外局として我が国の知財制度の要の、特許庁があります。同庁は、特許、実用新案、商標、意匠を仕切っています。

 一方、ネット時代、デジタル情報の時代に、著作権を職掌しているのは、文部科学省の外局の文化庁です。更に、知財、知的財産権として大切なものとしては、種苗法の品種、品種登録、育成者権があり、これは、農林水産省が所轄しています。

 扨、これら知的財産権の問題は、これまで事業者、或は著述業者等々のプロの世界を規律する法律群であると捉えられて来ました。が、ネット社会の出現により、特に著作権に関する諸問題が事業者、プロの作者に限られず、万人一般の問題であることになって来ました。

 合衆国の年末の大統領選を控えて、その候補者達は、どうもTPPについて掌を返したように、消極、冷淡な姿勢を示し始め、このままではその発足に至らない可能性も囁かれ始めていますが、TPPが発足すれば、著作権の保護期間は更に伸長されることになります。つまり、現行の著作権法では、その保護期間を著作者の死後50年と定めていますが、これが70年に伸長されることになります。これまでも孫まで食える、と言われていたものが曾孫まで養われる、と噂されています。このような強力社会的圧力は、ハリウッドに由来します。

 我が国では、2005(平成17)年4月から知財高裁(知的財産高等裁判所)が東京高等裁判所の(裁判所法に基づかない、民事訴訟法6条3項の定めるところによる)特別な支部として設けられ、知財事件の唯一の控訴審裁判を司っています。

 この知財高裁が昨年・平成27年4月14日に興味深い判決を下しました。

 

 幼児用の椅子という実用品について、美術の著作物に該当する、法的用語では著作物性を認めたものとされています。

 ノルウェーのデザイナーが作り、輸入、販売されているTRIPP TRAPPという名前の「赤ちゃんから大人まで、成長する椅子」と銘打たれた子供の成長に合わせ座面や足置き台を調整する機能を備えた幼児用の椅子について、思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条①項1号)として美術の著作物に該当する判断を示しました。

 もっとも、これは、総論として、このように判断しつつも、各論としては、著作権を侵害していると訴えられていた製品については、著作物性が認められる部分は類似していない、と判断はしました。

 

 このような製品のデザイン(意匠)を保護する制度としては、意匠法がありますが、その保護期間は20年である一方、若し著作権で守られることになるとそれは、著作者の死後50年間となります。

 

 意匠法は産業の発達を保護し、一方、著作権法は文化の発展を目的とすると考えられ、事業者なり、職業的著作者なりが長らくその保護の主体でした。

 ところが、IT技術の発達の結果、ネット社会が出現し、特に、著作権は、広く市民の一人一人が権利者にも、その侵害者にもなり得る時代が既に到来しています。

 そのような時代の中に、市民生活の中の実用品についても、著作権が認められ得ることをこの判決は原則として謳っています。

 甚だ刺激的であって、真に騒々しくリスキーな面を伴った話しです。

 保護が認められる、ということは、逆に侵害者にもなり兼ねない、という話しです。

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